毎日やることが多くて忙しい。業務改善をしたいけれど、どこから手をつければよいか分からない。ツールを入れる話は出るのに、何を良くしたいのかがはっきりしない。
最初にやりたいのは、今やっている業務を一覧に書き出すこと(業務の棚卸し) です。改善の候補は、この一覧から探します。
この記事でわかること
- 業務の棚卸しで書き出す7つの項目と、一覧の作り方
- 「頻度×時間×ミスの影響」で、どの業務から手をつけるかを決める方法
- 棚卸しをすると業務の何が良くなるか(忙しさの理由を説明でき、改善の1つ目が決まる)
結論:業務改善は、ツール選びの前に「業務の棚卸し」から始める
業務改善の最初の一歩は、新しいツールではなく「今やっている業務の一覧」です。
棚卸し(たなおろし)は、もともと在庫を数えて確かめる作業のことです。業務改善では、自分やチームが抱えている業務を1つずつ書き出し、頻度や時間を確かめる作業を指します。
進め方は、次の5つの手順です。
- 範囲と目的を1行で決める
- 1か月分の業務を「対象+動詞」で書き出す
- 各業務に、頻度・時間・ミスの影響など7つの項目を埋める
- 「頻度×時間×ミスの影響」で順位をつける
- 上位の1つだけ、打ち手と振り返る日を決める
データ分析やAIは、手順5で打ち手を考えるときに出てくる手段です。棚卸しの段階では、Excelやスプレッドシートの表が1枚あれば十分です。
よくある状況:忙しいのに、何に時間を使っているか説明できない
1回15分の作業でも、毎日続けば月に5時間ほどになります(月20営業日で計算した場合)。
業務の中には、1回が短くて目立たない作業がたくさんあります。
- システムの数字をExcelに転記する
- 月末に部署ごとの数字を集計して報告資料にまとめる
- 送る前に、金額や件数を目で確認する
- 依頼されたデータを抜き出して送る
一つひとつは「すぐ終わる作業」なので、忙しさの原因として意識されにくいものです。その結果、「何が大変ですか」と聞かれても「いろいろあって」としか答えられず、改善の話が前に進みません。
棚卸しをしないと起きること:改善が「目立つ困りごと」と「ツール選び」から始まる
書き出していない業務は、改善の候補にすら上がりません。
業務の一覧がないまま改善を始めると、次のようなことが起きやすくなります。
| 起きること | 業務への影響 |
|---|---|
| 目立つ困りごとだけが改善の候補になる | 毎日の小さな作業(転記・確認など)が候補から漏れ、合計では大きな時間が残ったままになる |
| ツールを先に選び、業務を後から当てはめる | ツールに合わない業務が残り、手作業と新しいツールの二重運用になる |
| 1人しかできない業務に気づかない | その人が休んだり異動したりしたときに、業務が止まる |
| 使われているか分からない資料を作り続ける | 誰の判断にも使われていないかもしれない作業に、毎月時間を使い続ける |
どれも、業務を一覧にして並べてみると見えてくるものです。逆に言えば、一覧がない状態では「どれから直すか」を決める材料がありません。
業務の棚卸しのやり方:5つの手順
棚卸しのゴールは、一覧の完成ではなく「最初に直す1つ」が決まることです。
1. 範囲と目的を1行で決める
最初に、どこまでを棚卸しするかと、何のためにやるかを1行で書きます。
- 範囲の例: 「自分の担当業務」「チーム3人分の業務」
- 目的の例: 「月末の残業を減らしたい」「担当者が休んでも業務が回るようにしたい」
目的によって、あとで重視する項目が変わります。残業を減らしたいなら「月の合計時間」、休んでも回るようにしたいなら「できる人の数」を重く見ます。
目的を先に短く書いておく考え方は、データ分析を始めるときと同じです。
2. 1か月分の業務を「対象+動詞」で書き出す
業務名は「受注データを転記する」「月次の売上報告資料を作る」のように、何を(対象)+どうする(動詞) の形で書きます。
細かさの目安は、1回で終わる作業のまとまりです。「営業事務」では大きすぎて改善の打ち手が決まらず、「セルをコピーする」では細かすぎて一覧が終わりません。
書き出すときは、記憶だけに頼らず、記録から拾うと漏れが減ります。
- カレンダー(定例の会議・締め切り)
- 送信済みメール(毎週・毎月送っているもの)
- 最近作ったファイル(毎月同じ名前で作っているもの)
月に1回や四半期に1回の業務は忘れやすいので、1か月分を書き出したあとに「月末・期末だけやること」を追加で確認します。
3. 各業務に7つの項目を埋める
書き出した業務ごとに、次の7つを埋めます。
| 項目 | 書く内容 | 例 |
|---|---|---|
| 頻度 | 月に何回発生するか | 毎日なら月20回、毎週なら月4回 |
| 1回の時間 | だいたいの所要時間(15分単位で十分) | 15分 |
| 月の合計時間 | 頻度×1回の時間 | 20回×15分=300分 |
| 使っているもの | Excel、社内システム、メールなど | 受注システム→Excel |
| 前後のつながり | 誰から受け取り、誰に渡すか | 営業から受け取り、経理に渡す |
| ミスしたときの影響 | 大・中・小(下の手順4で定義) | 大(請求額がずれる) |
| できる人の数 | その業務をできる人数、手順書の有無 | 1人・手順書なし |
時間は正確でなくて構いません。最初から測ろうとすると棚卸しが止まるので、まずは全体を並べることを優先します。
表はExcelやスプレッドシートで作り、「月の合計時間」は掛け算の列にしておくと、あとで並べ替えや合計が楽になります。チーム分の表を集めたら、ピボットテーブル(表を項目ごとに自動で集計するExcelの機能)で担当者別・業務別に合計すると全体が見えます。
4. 「頻度×時間×ミスの影響」で順位をつける
順位は、次の3つの物差しで決めます。
| 物差し | 見方 |
|---|---|
| 月の合計時間(頻度×1回の時間) | 大きいものほど、改善したときに戻ってくる時間が大きい |
| ミスしたときの影響 | 大=お金・社外・期限に響く / 中=社内の手戻りや確認のやりとりが増える / 小=自分の手間が増えるだけ |
| 自分たちで変えられるか | 自分やチームの判断で変えられるか、他部署やシステム担当の協力が要るか |
進め方は次のとおりです。
- 月の合計時間の大きい順に並べ替える
- ミスしたときの影響が「大」の業務に印をつける
- 上位の業務のうち、自分たちで変えられるものを候補にする
3つの物差しを掛け算して点数を出す必要はありません。並べて見比べるだけで十分です。
月の合計時間で並べ替えると、「なんとなく忙しい」が具体的な業務名に変わります。表が意味を持ちはじめるこの瞬間は、地味に好きなところです。
5. 上位の1つだけ、打ち手と振り返る日を決める
候補が複数あっても、最初に手をつけるのは1つだけにします。同時に複数を変えると、何が効いたのかが分からなくなるためです。
決めることは3つです。
- 打ち手(次の節の考え方で選ぶ)
- 振り返る日(例: 1か月後)
- 今の状態のメモ(棚卸し表の「月の合計時間」と「ミスしたときの影響」)
今の状態をメモしておくと、振り返りのときに「月300分の転記が、どう変わったか」を同じ物差しで比べられます。
打ち手の選び方:「なくす→まとめる→順番を変える→簡単にする」の順に考える
自動化は打ち手の後半です。最初に考えるのは「その業務はなくせないか」です。
改善の打ち手は、「なくす→まとめる→順番や担当を変える→簡単にする」の順番で考えると整理しやすくなります。
なくせる業務を自動化しても、なくせたはずの業務が速くなるだけです。そのため、Excelの関数やSQL(データベースからデータを取り出すための言語)、生成AIなどで作業を速くするのは「簡単にする」の段階で考えます。
棚卸しで見えた状態ごとに、最初に考えることを整理すると次のようになります。
| 棚卸しで見えた状態 | 最初に考えること | 打ち手の例 |
|---|---|---|
| 毎日・毎月、同じ集計や転記を手作業でしている | その集計・転記はなくせないか。元データから直接作れないか | 手順を整理してから、Excelの機能やSQLで自動化する |
| できる人が1人だけで、手順書がない | その人が休んだとき、業務は止まらないか | 手順書とチェックリストで、引き継げる形にする |
| 同じ内容を2人で確認している | 確認で何を防ぎたいのか | 件数・合計など、確認する点を決めて仕組みにする |
| 作り直しや差し戻しが多い | 依頼を受けた時点で、目的が共有されているか | 依頼を受けるときに確認する項目を決める |
| 作っているが、使われているか分からない資料がある | 受け取る側が、何の判断に使っているか | 使い道を聞き、なくすか頻度を下げる |
小さく始められる改善の例は、次の記事でも12個紹介しています(定例資料の自動化、二重入力の排除など)。
具体例:架空の営業事務チームで棚卸しをすると
棚卸しで最初に変わるのは作業時間ではなく、「何から直すか」をチームが同じ表を見て決められることです。
以下は、説明のための架空の例です。営業事務3人のチームが、1か月分の業務を書き出したとします(数字はすべて仮のものです。表は7つの項目のうち5つを抜き出しています)。
| 業務 | 頻度 | 1回の時間 | 月の合計時間 | ミスしたときの影響 | できる人の数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 受注データを受注システムからExcelに転記する | 毎日(月20回) | 15分 | 300分 | 大(請求額がずれる) | 2人 |
| 請求書の金額を2人で確認する | 毎日(月20回) | 10分 | 200分 | 大(社外に誤った請求が出る) | 2人 |
| 日次の在庫表を作る | 毎日(月20回) | 10分 | 200分 | 不明(誰が使っているか分からない) | 1人 |
| 月次の売上報告資料を作る | 月1回 | 180分 | 180分 | 中(会議で数字の確認が入る) | 1人・手順書なし |
| 週次の進捗メールを送る | 毎週(月4回) | 20分 | 80分 | 小 | 3人 |
月の合計時間で並べると、1位は「受注データの転記」です。ミスしたときの影響も「大」で、転記のやり方はチームの中で見直せるため、このチームの1つ目の候補になります。打ち手は、まず「転記をなくせないか(受注システムから直接データを出せないか)」を確かめ、なくせない場合に転記の手順を簡単にする方法を考えます。
ほかにも、表から次のことが見えます。
- 「日次の在庫表」は、使い道が分からないまま月200分かかっている。受け取る側に使い道を聞く候補になる
- 「月次の売上報告資料」は、できる人が1人で手順書もない。時間の順位は4位でも、引き継ぎのリスクとして別に記録しておく
棚卸しの前と後で、業務は次のように変わります。
| Before(棚卸し前) | After(棚卸し後) | |
|---|---|---|
| 忙しさの説明 | 「いろいろあって忙しい」 | 「転記に月300分、しかも請求に響く作業」と1行で言える |
| 改善の始め方 | ツール導入の話から始まる | どの業務から手をつけるかが、表の順位で決まっている |
| 1人しかできない業務 | 担当者が休むまで気づかない | リスクとして一覧に載り、手順書を作る候補に上がっている |
| 使い道が分からない資料 | 毎日作り続けている | 受け取る側に使い道を確認する予定が立っている |
棚卸しそのものが作業時間を減らすわけではありません。ただ、何から直すかの迷いがなくなり、改善の1つ目にすぐ取りかかれる 状態になります。上司やチームに相談するときも、「転記に月300分かかっていて、請求に響く」のように業務名と時間で話せるので、何に困っているかが相手に伝わりやすくなります。
初めての棚卸しで詰まりやすい3つのポイント
棚卸しは、完璧な一覧より「1か月分のざっくりした一覧」の方が役に立ちます。
1. すべての業務を細かく書き出さないと始められないと思う
原因: 漏れのない一覧を最初から作ろうとする。
なぜ起きるか: 「棚卸し」という言葉から、在庫を1つ残らず数えるイメージを持ちやすいためです。細かく書こうとするほど時間がかかり、途中で止まります。
対策: 範囲を「自分の担当の1か月分」に絞り、1回の時間も15分単位のだいたいで書きます。漏れていた業務は、気づいたときに1行足せば十分です。
2. いちばん時間のかかる業務から直すべきだと思う
原因: 「月の合計時間」だけで順位を決める。
なぜ起きるか: 時間は比べやすい数字なので、それだけで判断しがちです。しかし、合計時間が大きくても他部署の協力が要る業務は、すぐには変えられません。逆に、時間は短くてもミスの影響が大きい業務は、先に手を打つ価値があります。
対策: 時間・ミスの影響・自分たちで変えられるか、の3つを並べて見ます。迷ったら、自分たちで変えられる業務を1つ目にすると、最初の改善が早く形になります。
3. 業務改善といえば、新しいツールを入れることだと思う
原因: 打ち手をツールから考える。
なぜ起きるか: ツールは目に見えて分かりやすく、改善した実感も持ちやすいためです。ただ、なくせる業務や、まとめられる業務にツールを入れても、ムダな作業が速くなるだけです。
対策: 打ち手は「なくす→まとめる→順番を変える→簡単にする」の順に考えます。データ分析や生成AI、自動化は「簡単にする」の段階で検討します。
現場目線の注意点:棚卸しの表を、人の評価に使わない
棚卸しの表は「誰が遅いか」ではなく「どの業務が重いか」を見るためのものです。
棚卸しの表を、人の評価や比較に使わない。 「時間がかかっている人」を探す目的で使われると、時間を少なめに書いたり、書きにくい業務を書かなかったりする人が出ます。一覧が実態とずれ、本当に重い業務を見落とすことになります。チームで棚卸しをするときは、最初に「業務の見直しのためで、個人の評価には使わない」と伝えておくと書きやすくなります。
「なくす」と決める前に、受け取る側に確認する。 使われていないように見える資料でも、別の部署が月末の判断に使っていることがあります。確認せずにやめると、後から「あの資料がない」と急ぎの依頼が来て、かえって手間が増えます。やめる前に「何に使っていますか」と一言聞くのが安全です。
一覧を作って終わりにしない。 振り返る日を決めずに表を保存すると、翌月も同じ忙しさが続きます。業務は異動や繁忙期で変わるので、半年に1回など、時期を決めて表を見直すと、一覧が古くなりません。
まとめ
業務改善をどこから始めるか迷ったら、次の5つを順に進めます。
- 棚卸しの範囲(自分の担当か、チームか)と目的を1行で決める
- 1か月分の業務を「対象+動詞」で書き出す
- 頻度・1回の時間・月の合計時間・使っているもの・前後のつながり・ミスしたときの影響・できる人の数を埋める
- 「頻度×時間×ミスの影響」と「自分たちで変えられるか」で順位をつける
- 上位の1つだけ、「なくす→まとめる→順番を変える→簡単にする」の順で打ち手を考え、振り返る日を決める
一覧ができると、忙しさを業務名と時間で説明でき、改善の1つ目を迷わず決められるようになります。




