月末のあの集計は、担当のAさんしか分からない。Aさんが休んだ日は、誰も手をつけられずに翌日まで待つ。引き継ぎを頼まれても、何から書けばよいか分からない。
自分も処理を引き継いだとき、一番困ったのは、どうやって動かせばいいのか分からなかったことでした。
最初にやりたいのは、その業務を次にやるときに、手順と「判断している場所」を書き取り、担当者以外の人に1回やってもらうこと です。手順書は、書いた時点ではなく、別の人が回せた時点で完成します。
この記事でわかること
- 引き継げる手順書に書く6つの項目(目的・タイミング・使うもの・手順・判断と例外・確認)
- 手順書とチェックリストを作る5つの手順と、担当者以外がやってみる確かめ方
- 引き継げる形にすると業務の何が良くなるか(休みや異動で業務が止まらず、確認の仕方が人によって変わらなくなる)
結論:属人化は「人」ではなく「手順が頭の中にあること」の問題。手順書とチェックリストで外に出す
属人化(特定の人しかその業務をできない状態)を解く方法は、その人の頭の中にある手順と判断を書き出すことです。
進め方は、次の5つの手順です。
- 引き継げる形にする業務を1つ選ぶ
- 次にその業務をやるときに、手順を書き取る
- 判断している場所と例外を「〜のときは」の形で書き足す
- 毎回確かめる点だけを、チェックリストにする
- 担当者以外の人が、手順書だけを見て1回やってみる
手順書は、WordやExcelのメモでも作れます。ツールを選ぶより先に、担当者でない人が読んで同じ結果を出せるか を確かめます。
よくある状況:できる人に仕事が集まるのは、手順がその人の頭の中にあるから
「あの人にしかできない業務」の多くは、難しい業務ではなく、手順と判断が書かれていない業務です。
属人化は、誰かが仕事を抱え込んだから起きるとは限りません。よくあるのは、次のような流れです。
- 最初に任された人が、試行錯誤しながらやり方を作る
- やり方が固まるころには、忙しくて書き残す時間がない
- その人がやった方が早いので、次もその人に頼む
- 気づくと、その人しか分からない業務になっている
どの段階も、その場では自然な判断です。原因は人ではなく、やり方を書き残す時間が、業務の中に組み込まれていないこと にあります。
この状態が続くと、業務には次のような影響が出ます。
| 起きていること | 業務への影響 |
|---|---|
| 担当者が休むと、その業務が止まる | 締め切りのある業務が遅れる。担当者も休みを取りにくい |
| 判断の基準がその人の感覚にある | 同じデータでも、やる人によって結果が変わる。おかしな数字に気づけるのもその人だけになる |
| 「早いからあの人に」が続く | できる人に仕事が集まり、ほかの人が経験を積む機会が減る |
| 異動や退職の直前に、口頭で引き継ぐ | 年に数回の作業や例外の対応が漏れ、あとから問い合わせが続く |
業務の棚卸しで「できる人が1人・手順書なし」と書いた業務は、時間の順位が低くても、この表のリスクを抱えています。棚卸しのやり方は、次の記事で整理しています。
引き継げる手順書に書く6つの項目:手順だけでなく「なぜ」と「〜のときは」を書く
手順だけの手順書は、いつもと違うことが起きた日に止まります。引き継げる手順書には、目的と判断の基準も書きます。
最低限書きたいのは、次の6つです。
| 項目 | 書く内容 | 書かないと起きること |
|---|---|---|
| 目的と受け取り手 | 誰が、何の判断に使うか | 何のための数字か分からず、おかしな値に気づけない |
| タイミング | 頻度・締め切り・始めるきっかけ(「前日分のデータが入ったら」など) | いつやるか分からず、締め切りに遅れる |
| 使うもの | システム・ファイルの名前と保存場所、必要な権限 | 当日になって、ファイルが見つからない・ログインできない |
| 手順 | 1行に1つの動作を、「〇〇を開く」のように動詞で書く | どこまでやったか分からなくなる |
| 判断と例外 | 「〜のときは、〜する」の形で、いつもと違う日の対応 | 例外が起きた日に、担当者に連絡するしかなくなる |
| 確認と連絡先 | 終わったら確かめる点、困ったときに聞く人 | 間違いに気づかないまま、結果を渡してしまう |
一番抜けやすいのは「判断と例外」です。担当者にとっては当たり前すぎて、自分が判断していることに気づきにくいからです。「前日と大きく違ったら、元データを見直す」のような一行が、担当者の頭の中にだけある部分にあたります。
手順書とチェックリストの作り方:5つの手順
手順書は、思い出して書くより、次にその業務をやるときに書き取る方が、速くて漏れも少なくなります。
1. 引き継げる形にする業務を1つ選ぶ
最初は1つに絞ります。目安は「できる人が1人で、手順書がない」「止まると困る(締め切りがある、社外や他部署に影響する)」の2つです。棚卸しの表があれば、「できる人の数」が1人の業務から、ミスしたときの影響が大きいものを選びます。
2. 次にその業務をやるときに、手順を書き取る
記憶をもとに書こうとすると、細かい操作が抜けます。実際に業務をやりながら、1つの動作を1行で書き取ります。
担当者が自分で書いてもよいですが、引き継ぐ側の人が横で見て書き取ると、担当者が無意識に省いている操作に気づきやすくなります。文章にしにくい操作は、画面の写真を添えると伝わります(画面の撮影が社内で許されているかは、先に確認してください)。
書く道具は、使い慣れたもので構いません。自分は意外とExcelで手順書を書いてしまうことがあります。画面の写真が多くなる業務なら、PowerPointのほうが見やすい場合もあります。
書き取ったメモを、生成AIで手順の形に整える方法もあります。その場合も、社内のシステム名や顧客の情報を入力してよいかを、社内のルールで先に確認してください。整えた後は、手順が抜けたり順番が変わったりしていないかを担当者が読み返します。
3. 判断している場所と例外を「〜のときは」で書き足す
書き取った手順を担当者と一緒に読み返し、「ここで何かを見て決めていますか」 と1行ずつ聞きます。判断している場所が見つかったら、「〜のときは、〜する」の形で書き足します。
- 月曜日のときは、土日の2日分をまとめて取り込む
- 数字が前日と大きく違うときは、元データの件数を先に確かめる
- 元のファイルが届いていないときは、送り元に連絡し、受け取り手に遅れる見込みを伝える
「大きく違う」のようなあいまいな言葉は、担当者がふだん見ている目安(「前日の2倍以上」など)に置き換えます。目安がなければ無理に作らず、「担当者に確認する」と書いておきます。
判断だけでなく、「〇〇ボタンを押す」くらいの、書く必要がなさそうな操作も省かずに書きます。自分も、そのレベルの操作が書かれていなかったせいで、どこを押せばいいか判断がつかなかったことがあります。
4. 毎回確かめる点だけを、チェックリストにする
手順書は「やり方を知るための文書」、チェックリストは「やり終えたことを毎回確かめる表」です。役割が違うので、分けて作ります。
チェックリストに入れるのは、漏れたり間違えたりすると困る点だけ です。手順を全部チェック欄にすると、チェックをつけること自体が作業になります。
- 件数:元データと、取り込んだ後の件数が同じか
- 合計:元データの合計と、集計結果の合計が同じか
- 締め切りと渡し先:決まった時間までに、決まった人に渡したか
- 例外:手順3で書いた「〜のとき」に当てはまる日ではないか
件数と合計で確かめる考え方は、Excel転記を減らす記事の注意点でも使っています。
5. 担当者以外の人が、手順書だけを見て1回やってみる
最後に、担当者以外の人が手順書とチェックリストだけを見て、実際にやってみます。担当者は横で見るだけにして、口で補足せず、相手が止まった場所をメモ します。
止まった場所が、手順書に足りない部分です。自分が作った集計の仕組みを人に渡したときも、相手が止まったのは、やはり書かれていなかった細かい操作のところでした。その場で書き足し、次の回にもう一度やってもらいます。止まらずに最後まで終わり、チェックリストも埋まれば、引き継げる形になったと考えてよいでしょう。
具体例:架空の営業事務チームの「日次の在庫表」を引き継げる形にすると
引き継げる形になったかどうかは、担当者が休んだ日に、その業務が止まらずに回るかで分かります。
以下は説明のための架空の例です。業務の棚卸しの記事で使った架空の営業事務チームには、「毎日・1回10分・できる人1人」の日次の在庫表がありました。受け取り手に使い道を聞いたところ、倉庫の担当者が翌日の発注を決めるのに使っていたため、作り続けることにしたとします。
担当者に作業してもらいながら書き取ると、判断している場所が3つ見つかりました。「月曜日は土日分をまとめる」「前日の2倍以上の数字が出たら、返品の入力を確かめる」「システムの更新が遅れた日は、倉庫に連絡してから作り直す」。どれも、担当者に聞くまで手順のどこにも書かれていなかった判断です。
| Before(引き継げる形にする前) | After(手順書とチェックリストの後) | |
|---|---|---|
| できる人 | 担当者1人 | 担当者+手順書で1回やってみた1人 |
| 担当者が休んだ日 | 在庫表が出ず、倉庫は前日の表で発注を決める | 交代の人が手順書を見て作る |
| いつもと違う日 | 担当者の感覚で判断する | 「〜のときは」の3行に沿って対応する |
| 終わった後の確認 | 担当者が目で見て確かめる | 件数・合計・渡し先をチェックリストで確かめる |
この例で良くなったのは、作業の速さではありません。担当者が休んでも在庫表が止まらず、確認の仕方が誰がやっても同じになった ことです。担当者にとっても、「自分しか分からない」負担が減り、休みを取りやすくなります。
現場目線の注意点:手順書づくりを「担当者の宿題」にしない
手順書づくりは、担当者の空き時間の作業ではなく、チームの業務として時間を取ります。
担当者だけに書かせない。 属人化している業務の担当者は、仕事が集まっている分、忙しいことが多い人です。「空いた時間で書いておいて」と頼むと後回しになるか、急いで書いた短い手順書になります。書き取りは引き継ぐ側が担当し、担当者の役割は「作業を見せる」「判断を聞かれたら答える」だけにすると、負担が小さくなります。
書いて終わりにしない。 やり方は、システムの変更や受け取り手の要望で少しずつ変わります。手順書が古いままだと、引き継いだ人が古い手順で作業し、かえってミスが増えます。「やり方を変えたら、その日のうちに該当の行を直す」と決め、更新した日と内容を末尾に1行残しておきます。
手順書は「誰ができないか」を探すためではなく、「誰でもできる」ようにするためのものです。担当者が作ってきたやり方を、チームで使える形に移す作業として進めると、担当者も協力しやすくなります。
まとめ
属人化した業務を引き継げる形にするときは、次の5つを順に進めます。
- できる人が1人で、止まると困る業務を1つ選ぶ
- 次にその業務をやるときに、1つの動作を1行で書き取る
- 担当者に「ここで何かを見て決めていますか」と聞き、判断と例外を「〜のときは」で書き足す
- 件数・合計・渡し先など、毎回確かめる点だけをチェックリストにする
- 担当者以外の人が手順書だけでやってみて、止まった場所を書き足す
手順と判断が書き出されると、担当者が休んでも業務が止まらず、確認の仕方も人によって変わらなくなります。





