会議で「今月の売上」を見ると、資料によって数字が少し違う。税込なのか、返品を引いた後なのか、すぐに答えられる人がいない。KPIの数字を出すたびに、計算の仕方を聞き直している。
最初にやりたいのは、よく使う指標を1つ選び、計算式・KPIにする理由・除外条件を書き出すことです。ずれの原因を探す前に、何をどう数えるかを決めておきます。
この記事でわかること
- KPI定義書に書く9つの項目と、記入例つきのテンプレート
- 人によって違う「見たい数字」を1つにまとめる手順
- 定義書があると業務の何が良くなるか(質問と推察が減る)
結論:KPI定義書は「計算式・KPIにする理由・除外条件」の3つから書く
KPI定義書は、指標ごとに「計算式・KPIにする理由・除外条件」を書いた、数え方の決め事の一覧です。
KPI(重要業績評価指標)は、目標に向けた進み具合を測る数字です。同じ「売上」でも、税込か税抜か、返品を引くかで数字は変わります。
数え方が人の頭の中にあると、資料を作る人ごとに計算が変わります。そうなると、会議は数字の中身の確認から始まります。
自分が定義を書き出したときの項目も、「指標の計算式」「KPIとして設定する理由」「項目ごとの除外条件」でした。この3つに、使うデータや更新のタイミングを足すと、定義書の形になります。
数字がずれたときの原因の探し方は、次の記事にまとめています。この記事では、ずれる前に決めておく定義書の作り方に絞ります。
KPI定義書のテンプレート:1つの指標につき9つの項目を書く
定義書は、1つの指標につき9つの項目を、1行1項目で埋めれば始められます。
テンプレートは次のとおりです。
| 項目 | 書く内容 | 書かないと起きること |
|---|---|---|
| 指標名 | 名前と一言の説明 | 似た名前の指標と混ざる |
| 計算式 | 何を足すか・何で割るか | 人によって計算が変わる |
| KPIにする理由 | 何の判断に使うか | 見る意味が分からなくなる |
| 除外条件 | 数えないデータと理由 | テスト注文などが混ざる |
| 使うデータ | テーブル名・項目名 | 元データを探し直す |
| 期間と日付 | どの日付で区切るか | 月の境目で数字がずれる |
| 更新のタイミング | いつ時点の数字か | 見た時間で数字が違う |
| データ上の制約 | 出せない部分と代わりの扱い | 前提を知らずに判断する |
| 変更履歴 | 決めた日・変えた日と理由 | 決めた理由が分からなくなる |
「使うデータ」には、テーブル名と項目名だけを書きます。項目ごとのデータ型や意味まで書く必要はありません。
以下は説明のための架空の例です。通販の「月間売上」を定義すると、たとえば次のようになります。
| 項目 | 記入例(架空) |
|---|---|
| 指標名 | 月間売上(税抜・返品控除後) |
| 計算式 | 注文明細の税抜金額の合計−返品額 |
| KPIにする理由 | 月の販売目標への進み具合を見るため |
| 除外条件 | キャンセル・テスト・社内向けの注文 |
| 使うデータ | 注文明細テーブルの「税抜金額」列 |
| 期間と日付 | 注文日で月を区切る。返品は返品日の月 |
| 更新のタイミング | 毎朝、前日分までを反映 |
| データ上の制約 | 出荷日の列がないため、注文日で代用 |
| 変更履歴 | 決めた日・決めた人・変えた理由 |
指標名に「税抜・返品控除後」まで入れておくと、資料に名前だけ載せたときも中身が伝わります。
作り方:見たい数字を1つにまとめ、データとのギャップを埋める5つの手順
定義書づくりで大変なのは、書く作業より、人によって違う「見たい数字」を1つにまとめる作業です。
1. 定義する指標を1つ選ぶ
最初から全部の指標を定義しようとすると、終わりません。会議や定例の資料で毎回出てくる指標から、1つ選びます。
目安は「人によって計算が違いそう」「その数字で何かを決めている」の2つです。売上・件数・率のように、名前は短いのに中身が広い指標が候補になります。
2. 使う人に、目的と頭の中の計算式を聞く
その指標を見る人・作る人に、「何の判断に使っているか」と「どう計算していると思っているか」を聞きます。
自分が定義を書き出したときも、人によって見たい指標が異なるため、そこを1つにまとめることが大変でした。
まとめるときは、計算式からではなく、判断の目的から合わせます。目的が同じなら、計算式は1つに寄せられます。
目的が違うなら、無理に1つにしません。「売上(税込)」と「売上(税抜・返品控除後)」のように、名前を分けて別の指標にします。同じ名前で中身が違う数字を残さない。名前が同じだと、資料を見た人は同じ数字だと思って比べてしまいます。
3. 計算式と除外条件を書く
計算式は、言葉で具体的に書きます。「売上」ではなく、「注文明細の税抜金額の合計から、返品額を引く」のように書きます。
件数の指標は、何を1件と数えるかまで書きます。行の数なのか、重複を除いた注文や人の数なのかで、同じデータでも数字が変わるからです。
除外条件は、「数えないもの」と「その理由」を1行ずつ書きます。理由まで書いておくと、後から「これは外してよいのか」と迷いません。
4. 実際のデータで出せるか確かめる
書いた計算式で、実際のデータから数字を出してみます。ここで、求められた計算式と実際のデータの違いが見つかることがあります。
自分のときも、相手が求める計算式と、実際のデータにはギャップがありました。そのギャップを可能な限り埋める形で設定に落とすことも、大変でした。
ギャップには、たとえば次のようなものがあります(架空の例です)。
- 出荷日で区切りたいが、出荷日の列がない
- 返品の理由別に見たいが、理由が自由記述
- 顧客ごとに数えたいが、顧客IDが空の行がある
代わりの列で近づけられるなら、そうします。埋められない差は、隠さずに「データ上の制約」の欄に書きます。
「出荷日がないため注文日で代用」と書いてあれば、数字を見る人も前提を知ったうえで判断できます。
5. 置き場所を決め、資料に定義を添える
決まった定義書は、チームの誰もが開ける場所に置きます。数字を出す資料には、使った指標の定義を1行添えるか、定義書の場所を書いておきます。
分析資料の冒頭に「前提・定義」を1枚置く考え方は、データ分析の落とし穴の記事でも紹介しています。
定義を変えたときは、変えた日・内容・理由を、変更履歴に1行残します。
業務への着地:定義書があると、数字の中身を聞くやり取りと推察が減る
定義書があると、数字やデータを受け取った人が、作った人に聞かずに使えるようになります。
定義書があって良いのは、他の人が見たときに、その数字を活用できる点です。
定義書がないと、資料を受け取るたびに「これは税込ですか」と聞き、答えを待つことになります。聞けないときは、計算の仕方を推察するしかありません。
架空の例で、Before/Afterを比べると次のとおりです。
| Before(定義書なし) | After(定義書あり) | |
|---|---|---|
| 数字の中身 | 作った人に毎回聞く | 定義書を見れば分かる |
| 担当が変わったとき | 前の人の計算を推察する | 定義書の計算式で出す |
| 出せない部分 | 人ごとに代わりの扱いが違う | 制約の欄の扱いで出す |
| 会議の最初 | どの数字が正しいかの確認 | 数字を見て次の手を話す |
良くなるのは、集計の速さそのものではありません。数字の中身を聞く・推察する時間が減り、数字を使う話に時間を回せることです。
現場目線の注意点:定義書と実際の計算を、別々に直さない
定義書は、実際の集計の式と同じ日に直さないと、すぐに信用されなくなります。
集計の式だけを直さない。Excelの式やダッシュボードの計算を変えたのに、定義書が古いままだと、書いてある内容と出てくる数字がずれます。
一度ずれると、定義書を見ずに、作った人に直接聞く運用に戻ります。計算を変える日に、定義書の該当行と変更履歴も直すと決めておきます。
数字を見る人だけで定義を決めない。定義を決める場には、数字を見る人と、データを出す人の両方に入ってもらいます。
見る人だけで決めると、データで出せない計算式になりがちです。出す人だけで決めると、判断に使いにくい数字になることがあります。手順4のギャップは、この2者が同じ場にいると早く見つかります。
まとめ
KPI・指標の定義書を作るときは、次の5つを順に進めます。
- 会議でよく使い、計算が人で違いそうな指標を1つ選ぶ
- 判断の目的と頭の中の計算式を聞き、1つにまとめる
- 計算式と除外条件を、理由と一緒に書く
- データで出してみて、埋められない差は制約の欄に書く
- 誰でも開ける場所に置き、計算と同じ日に直す





